サッカー専用スタジアム問題の基礎知識(その1)

Jリーグサポーターがスタジアムに求めるものはおおむね以下のような要素だろう。

  • 客席とピッチの距離が近い専用スタジアムが欲しい
  • 屋根(や座席暖房)が欲しい
  • 見やすいよう傾斜のある客席が欲しい
  • 交通至便な場所に欲しい

こういったサポーターの要求が満たせるかどうかについて考える。

比較:野球専用スタジアムはなぜ建ちやすいのか

サッカーに比して野球は専用スタジアムがポコポコと建っており、羨ましいものである。野球専用スタジアムが建ちやすい最大の理由は収益性である。まず、プロ野球興行は開催日数が多い。ホームゲーム開催数はポストシーズンの期待値など含めて70あまりである。Jリーグの場合、リーグにカップ戦も合わせて30足らずに過ぎない。また、野球は人工芝でよく、このためプロ野球興行が行われない期間はコンサートなどへの転用も容易であり、稼働率はさらに高まる。

この収益性の高さにより、プロ野球の本拠地のうち半分は税金に頼らない独自経営となっている。残り半分は税金で建てられたものだが、利用料収入が多いために完済までは行かずともある程度払い戻されることが期待され、自治体にとって最終的な差し引きは高いものとならない。独自経営であれ公営であれ、収益性が高ければ建てやすいことには違いがない。

また、収益性が高いことは、駅近などの好立地を選びやすいということでもある。良い場所は商業施設やオフィスビル、マンションなども狙っており、それが地価に反映される。好立地を得ようとするならば、そういった他業種より土地面積当たりの高い収益性を達成し、高い土地取得費と固定資産税を支払うだけの収入を上げる必要がある。毎日営業するデパートに対抗するには、スポーツ興行からコンサートまで毎日スケジュールを埋めるようでなければ難しいだろう。

サッカーは競技の性質上これ以上試合数を増やすのは難しく、また天然芝を要求するためコンサートなどへの転用もそれほど簡単ではない。すなわち、将来的にもサッカースタジアムの収益性が(デパートに対抗できるほどに)劇的に改善する見込みはない。客席とピッチの距離や屋根はどうにかなるとしても、特に「交通至便な場所に欲しい」という要求は収益性の問題で叶えにくく、ヨーロッパの有名スタジアムも大半は都市中心部から離れ、郊外にあるのが現実である。この制限を頭に置いたうえで、どこまでサポーターの希望が叶えられるかを考えることが基本になるだろう。

アレアンツアレーナの位置。
郊外の田園の中である。
ドルトムントホームの風景。
完全に田園地帯の中である。
アレアンツアレーナの位置 ヴェストファーレンシュトゥデオンの風景

自治体はなぜ総合スタジアムを建てたがるのか

自治体は陸上競技場・総合スタジアムにはホイホイと金を出すがサッカー専用スタジアムには難色を示すことが多い。これはなぜだろうか。指摘される理由を一つ一つ検討してみよう。

税金の使途の公平性

税金を出すには「公共のため」という名目が必要である。このため、受益者が偏ることは避け、なるべく公平に利益が行きわたるほうが好ましい。この観点で見た時、陸上競技場であればサッカーと陸上が両方開催可能である。ならば受益者の公平性のために両方できる施設である総合スタジアムのほうが好ましいということになる。サッカーは年間30回は使って貢献しているとは言うものの、自前でスタを建てられるほど収益が上がっている訳ではないので、サッカー専用にするには名目が立たず、汎用スタジアムを使ってください、となってしまう。

しかし実際問題として、野球に関しては受益者が偏るにもかかわらず公営の専用スタジアムが多数建っている。一番大きいのはかつて野球が随一の人気スポーツであり、年3試合程度の地方巡業を見たいという理由程度で予算が承認されていたからである。ただ、さすがに近年はこの理由では専用スタジアムは建たない。別の理由として、アマチュア野球の大会が盛んにおこなわれている(いた)ことも挙げられる。プレー人口が多いので需要に合わせて(安い客席数1000程度の物が多数だが)相応の数の競技場が建設されている。ただ、サッカーも最近は野球に匹敵するプレー人口・ファン人口を抱えている。なのになぜサッカー専用スタジアムが立たないのだろうか。それはサッカーは陸上競技場「でも」できるからである。全く試合が開催できないのであれば、プレー人口の多さを鑑みれば専用施設の建設も説得力がある。しかし競技の開催自体に支障がない以上、自治体は「試合を開催したい」という義務は果たしているわけで、「見やすくしろ」は一介の営利企業が要求する必要以上のワガママであると蹴られても致し方がないのが実情である。もう一つ大きな理由は収益性であり、これは説明したとおりである。

陸上連盟側の要求

陸連が横槍を入れてサッカー競技場を総合スタジアムにしてしまう、などということがまことしやかに語られている。実際の陸連の要求は「各都道府県に公認記録が取れる施設を1つずつ用意してほしい」である。陸上競技連盟が規定する「公認記録が取れる施設」[規約]には第一種と第二種があり、第一種は国体が開催可能な15000人級(芝席含む)であり、第二種は5000人級である。たかだか陸上競技に5000人の観客席が必要なのかという疑問は当然浮かぶところだが、一般的な陸上競技会ではエントリー人数が1000人程度でありサポートメンバーの居場所や用具置き場などを含めると5000人級の席数は毎年の大会を円滑に開催する上で実際に必要な数字である(実際中学・高校・シニアの大会を見に行けばかなり埋まっているのが確認できるだろう)。陸上の競技人口はアマチュアだけでもサッカーの1/3近くおり、マラソン専門も含めると実はサッカーに引けを取らない競技人口がいる、ということは留意すべきである[参考]。

オリンピック・国体等の招致

自治体首長は景気のいいイベントとしてオリンピックやアジアンゲームズを招致したがる傾向にあり、なんとなく税金の投入が問題視されない、というのも陸上競技場が建ちやすい一つの理由である。たとえば国立競技場は天皇杯の決勝やトヨタカップが行われてきた歴史を持ち日本サッカーにとって“聖地”の一つであるが、建設した理由はオリンピックのためである。また国立競技場改修もオリンピック招致がセットになっている。横浜国際競技場が(サッカーファンからは非常に評判の悪い)巨大な総合スタジアムになったのも、元はと言えばオリンピック招致の構想があったからである。広島ビッグアーチも1994年アジアンゲームズの開催が前提である。国際競技会とまで行かずとも、国内版オリンピックとも言える国体、あるいはその学生版である高校総体が各都道府県を順繰り回る形式で行われており、まず自治体は国体の開催を念頭に置いて設備更新を行っている。

殊に国体は、陸上スタジアムが建ちやすくなる“原因”としてJリーグサポーターからは嫌われているが、しかしながら国体は「後回しにされがちなスポーツ施設の建設を自治体に促す役割」もあり、Jリーグもその恩恵に被っている面もある。特にJ2以降に参加したクラブの場合、Jリーグ仕様のスタジアムを税金で新設するほどサッカー熱のあるところは少なく、国体スタジアムがなければそもそもプロクラブが出来ていなかった可能性が高いところが多い。言いかえると、自前の専用スタジアム建設が視野に入るようなクラブなら「国体のせいで……」と言うことはできるが、そうでないならむしろ「国体のおかげで……」というのが実情である。J2設立以降に参加したクラブの大半は後者であり、前者だとはっきり言えるのは川崎・横浜FM・広島程度である。

また首都や地方の中心都市には五輪仕様のスタジアムが立ちやすいのはヨーロッパも同じである。例えばベルリンやローマのサッカークラブは「オリンピック」の名を冠する陸上競技場をホームとしているし、パリのサンドニは可動席を使った多目的仕様となっている。ロンドンのウェンブリーもほとんどサッカー専用のように見えるが、上げ底をすることで陸上競技が開催可能な仕様となっており、その分コストは高くなっている。

どうやったら専用スタジアムが建つのか

小規模なつつましいスタジアムを建てる

サッカー専用スタジアムを建設する最も簡単な方法は、スタジアム(のスタンド)の規模を小さくすることである。その2で詳述するが、スタジアムの建設費は概ね客席数の2乗に比例して大きくなる。このため、客席数2000程度のスタジアムの建設費は10億円に満たず、市町村レベルの自治体でも建設が可能である。実際、欧州の3部以下のリーグにはこの規模のスタジアムが多い。アマチュアを対象とした日本の野球場の大半もこのサイズである。

Jリーグにおいても、規格(J1=15000人、J2=10000人)ギリギリに抑えれば建設費はかなり抑えることができる。10000人で(日立台や鳥栖型の)長方形スタンド、最低限の屋根とすれば20億円程度での建設も見込めるだろう汎用性も小さく快適ではないかもしれないが)。

大都市の場合

東京・大阪・名古屋・福岡といった大都市では、各種競技施設の需要が多く、運動公園を複数備えるほどであり、競技ごとに専用の競技場を建てることは難しくない。サッカー専用、ないしはラグビーやアメフトを含めたフットボール専用スタジアムを建てる需要は大いにある。例えば東京には秩父宮ラグビー場や西が丘サッカー場があるし、大阪には長居公園にサッカー専用競技場(キンチョウスタジアム)がある。横浜三ツ沢や大宮公園もその類である。仙台スタジアムは、都市の規模は小さいものの東北全体の需要に応える形で専用スタジアムが建設されている。宇都宮程度の都市でも専用スタジアムが建つ可能性はあるが、安くするために都市中心部から外れた場所に屋根なしの簡易なスタジアムになることは免れない。

県庁所在地である地方都市の場合

先述したとおり、人口の少ない自治体では、数少ない施設をなるべく多くの用途で兼用することが求められるため、汎用性の高い施設が求められる。国体やその予選は開催しなければならないし、総合競技場の汎用性の高さも鑑みれば、県庁所在地でJ1規格を満たす専用競技場に税金を投じることは極めて困難であると思われる。新潟ビッグスワンはこのような政治的要請があるために、ワールドカップの準備でありながら専用スタジアムにはならなかった。税金で建てられる限界は、札幌フォームのように座席・芝生が移動式で他競技やコンサートなどにも対応できるような形だろう。

県庁所在地でサッカー観戦に適したスタジアムを欲する場合、サッカー観戦に適した形状ながら他の用途との兼用が可能である施設(フットボール類用スタジアムなど)を求めるか、あるいはクラブが自力で専用スタジアムを建設する以外は困難であると考えられる。

県庁所在地でない小都市の場合

同じ小都市であっても、県庁所在地でない場合には専用スタジアムの建設に乗り気になる可能性は考えられる。県庁所在地は国体を含めて「総合スタジアム」を一つは欲しがるが、県庁所在地にそれを作ってしまえば他の都市ではそれを作る必要はなくなるからである。その上で、需要の増加、”地域間のバランス”といった政治要因、土建屋行政など様々な理由で追加のスタジアムが建つことがあり、その一部はサッカー専用になることはある。実際にもそういったスタジアムは少なからずあり、アルウィン松本のその好例である。鳥栖スタジアムも県庁所在地以外に立っている物であり、大宮公園サッカー場も浦和に対して、という側面もある。

屋根や建設費の話はその2に……続く?

番外編:広島に土木造成で専スタは建つか?

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サッカー専用スタジアム問題の基礎知識(その1)」への2件のフィードバック

  1. まったく的外れ過ぎてウンザしますね。スポーツについて真面目に考えているのならもう少し勉強しましょう。

    >サッカーに比して野球は専用スタジアムがポコポコと建っており、羨ましいものである。
    >野球専用スタジアムが建ちやすい最大の理由は収益性である。

    違います。NPB野球場が良い立地にあるのは「昔からあるから」です。それだけです。先行者利益と言っても良いでしょう。甲子園(1924。阪神電鉄の開発戦略。当時は村)、神宮外苑(1926。外苑の運動公園計画に野球界が食い込んだ。)、東京ドーム(1937、旧後楽園。国有地の払い下げ)、ナゴヤ球場(1948、空襲で焼けた軍需工場跡地)、広島市民球場(1957、国有地である旧陸軍の部隊の「営庭」の使用許諾を得る)。

    儲かるから、で作られたものではありません。兎に角利便性が良いところがよいという政治へのロビイングの成果です。権力とのコネがなければ難しいものが殆どです。

    楽天の宮城県営球場も軍訓練場跡地に1950年に出来ています。プロ野球の本拠地になるのは20年以上先です。

    そんなものの収益性なんて考えてるわけないだろ?阿呆でも分かることだぞ?

    >なのになぜサッカー専用スタジアムが立たないのだろうか。それはサッカーは陸上競技場「でも」できるからである。

    はあ、本当に何も知らない人ですね。陸上競技場のインフィールドが野球場になっているものもあります。あなた風に言えば

    >野球は陸上競技場「でも」できます

    となります。勉強しましょうね。

    行政が、サッカー場を作らなかったのは「サッカーは陸上競技場でするものだ」という前例主義によるものです。上記で外苑について書きましたが神宮外苑競技場(国立の前身)が出来たとき、サッカー、ラグビーもそこで大会をやりました。戦前のことです。神宮外苑競技場のような運動公園を作るという発想は西洋からの「輸入」です。西洋ではサッカーもラグビーも当時は陸上競技場でやっていたことでしょう。

    で、その西洋は今も陸上競技場でサッカーをやっていると思いますか?

    前例主義を行政は踏襲しているだけです。

    ラグビー界は1948年に外苑に接する、戦災で焼失した女子学習院跡地に秩父宮ラグビー場を作った。

    この土地をラグビー場として使用する際に収益性なんて考えたと思ってるの?

    ラグビー界が努力したのに対し、サッカー界がマトモなサッカー場を作ろうという努力を怠ってきた。現在でも政治活動をしようという動きは余りありません。

    サッカーファンがもっと強力に政治に訴えなければならないだけです。

    そんな中、あんたみたいに「収益性が云々」でサッカー場を諦める馬鹿は行政からしたら聞き分けの良い馬鹿として重宝するでしょうね。

    せいぜい後世の為に良いサッカー場を残そうとするサッカーファンの足を引っ張らないようにお願いします。

    >陸上競技に5000人の観客席が必要なのかという疑問は当然浮かぶところだが、一般的な陸上競技会ではエントリー人数が1000人程度でありサポートメンバーの居場所や用具置き場などを含めると5000人級の席数は毎年の大会を円滑に開催する上で実際に必要な数字である

    陸連の回し者か何かですか?一種は15000だし、2~3万のものも作られているのですが?馬鹿なの?どうして現実を見ようとしないのか??youtubeでスカスカのスタンドが映っている陸上大会の動画なんて一杯あるが?頭は大丈夫か?

    論理の破綻に気付けない?収益性はどこへ行ったの?

    >マラソン専門も含めると実はサッカーに引けを取らない

    マラソンをするのに競技場は必要ないが?箱根駅伝はトラック走ってるか?どうしてこんな間抜けなことを書くの?

    >後回しにされがちなスポーツ施設の建設を自治体に促す役割

    は?日本初の運動公園であろう神宮外苑以来、陸上競技場は運動施設の中核として長年整備され続けいているのですが?

    国体を目的に作られた陸上の一種競技場とJ1基準のサッカー場、どっちが多いかなんて明らかだけども?何故、こんな詭弁を書くのか理解できない。

    >特にJ2以降に参加したクラブの場合、Jリーグ仕様のスタジアムを税金で新設するほどサッカー熱のあるところは少なく、国体スタジアムがなければそもそもプロクラブが出来ていなかった可能性が高い

    実に間抜けな言い分です。では、サッカー場は建たないが、2~3万の立派な陸上競技場が建っている理由は何?まさか、「陸上熱」があるからとか言いませんよね?国体に使う立派な陸上スタジアムがなくても国体に使う立派なサッカー場があればプロクラブは出来る。そんなことも分からないの?

    >また首都や地方の中心都市には五輪仕様のスタジアムが立ちやすいのはヨーロッパも同じである。

    また、嘘をつく。

    >例えばベルリンやローマのサッカークラブは「オリンピック」の名を冠する陸上競技場をホームとしているし、

    ベルリンが出来たのは戦前。ローマは1953年。今、21世紀なんだけども?頭大丈夫?因みにヘルタ・ベルリンはベルリンシュタディオンから撤退してサッカー場を建設することを表明しています。

    >ロンドンのウェンブリーもほとんどサッカー専用のように見えるが、上げ底をすることで陸上競技が開催可能な仕様

    ウェンブリーは一度も陸上モードになったことが無い。何故なら、陸上モードへ変更するのは「事実上の改築」であり、40億くらいの金がかかるから。実際の運用として陸上モードになることはこれまでも今後も無い。これも検索すれば記事が出てくるので勉強しましょう。

    まとめ。あなたは良いことも書いているのかもしれないが、事実を知らなさ過ぎる。余りに酷い。こんな嘘が拡散されると迷惑だ。訂正するか書き直しなさい。

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