Jリーグの経営問題に思う(その1)

テレビの持つ稼ぐ能力

Jリーグ関係者から上がる不満の一つとして「地上波がJリーグを取り上げない」というものがある。なぜ地上波にこだわるかと言えば、クラブ収入の3つの基幹「入場料」「放映権料」「広告料」の3つすべてに好影響をもたらすからである。まずテレビで放映されるのだから放映権料が発生することは言うまでもない。次に、より視聴範囲の広い地上波に出ることでより広い人にユニフォームやピッチ脇を見てもらう機会が生じるので、広告料収入が増加する(このあたりの詳細はその2で)。間そして地上波はそれそのものが多数の人が共同利用するチャンネルであり、そこに露出すると実質的に放映対象の知名度を高める宣伝効果があり、入場料収入の増加も期待できる。地上波への露出は営業的にはいいことづくめであり、多少放映権料を割引いても広告効果や広告料収入を高めたりする上で取りたいと思うところである。

「ローカルコンテンツ」であるJリーグは地上波には向かない

しかしながら、地上波側から見た場合Jリーグは魅力的なコンテンツではない。なにごとも視聴率至上主義の民放では、全国区の人気があり読売グループが保有する巨人でさえ、ナイター戦の視聴率が10%を割ってくれば、地上波放映は日テレからもなくなってしまう。Jリーグは地域密着を理念とし、人口の少ない地域でもプロとして興行を成り立たせるだけの成果を上げているが、それは同時に全国区の人気のあるクラブがないということでもあり、全国区の人気のあるコンテンツで視聴率を稼ぎたいテレビ局の思惑とは一致しない。そもそも放送は広域、全国、全人口にに情報を伝える手段であるため、全国人気より地域密着を優先するJリーグとはそもそもそりが合わないわけである。

公共放送であるNHKは視聴率を気にしなくてもいいではないかという意見もあるが、これもまた難しい。なぜならば、Jリーグを構成する個々のクラブは営利企業であって、個別の営利企業に特別の便宜をはかって地上波を占有させる理由はないからである。これよりは、7時のニュースやダイオウイカのほうが公共性があると見なされそちらが優先されているわけである。NHKのサッカー放送において「全国民に伝えるだけの公共性がある」と見なされ視聴率無視で地上波放送されているコンテンツが(主に)二つある。一つは誰でも参加できるオープン杯である天皇杯の決勝であり、これは卓球やバドミントンの全日本選手権決勝が教育テレビで放映されているのと同じ理由で地上波にのっている。もう一つの公共コンテンツは、全日本サッカー選手から選抜した日本代表戦である。これらに比してJリーグはローカルな営利企業による興行であり、よほどの人気があれば地上波で放映するかもしれないが、現状ではBSに固定枠を作るのが精一杯である。

結局、Jリーグというコンテンツを拾っていくのは、視聴率がそれほどでなくとも利益が出る有料放送ということになる。今はプロ野球もそうなっているし、海外のスポーツ放送でも多チャンネル化・有料放送・PPVは当たり前になってきているので、Jリーグ固有の傾向ではなく、プロスポーツはどこもその傾向はある。

「ワールドオールスターリーグ」を作り上げ魅力を確保した欧州

苦戦するJリーグに比べ、欧州リーグ、特に英西独伊の4大リーグと欧州チャンピオンズリーグ(CL)は空前の繁盛をしている。その繁盛は、欧州の外、アジアやアフリカ、アメリカでの人気に支えられている。欧州リーグがなぜ欧州の外からの人気を獲得したかと言えば、欧州という元々サッカーが強いところに、南米やアフリカなどの世界の有力選手をも集め、「ワールドオールスターリーグ」と言えるものを作り上げたからである。すなわち、コンテンツ自体に「世界一リーグ」という魅力があるわけである。これは2000年ころからの出来事であり、銀河系軍団、石油富豪オーナーの参入、CLの再編などリアルタイムで経験した方も少なくないだろう。こうして「世界一」の看板を掲げることで世界中の視聴者を集めることに成功したわけである。(※もっとも世界一だけでは視聴率は稼げない。陸上のIAAFダイヤモンドリーグはそれなりに成功したがそこまで繁盛しているとは言えない。サッカー自体の人気についはもう少し別の事由がある)

また欧州リーグの中でも「ワールドオールスター」化に成功したところほど営業的には勝ち組となっている。プレミアリーグは、外資を受け入れ、各国代表クラスの選手限定であるが外国人枠を撤廃し、英語放送網をテコにした販促活動を繰り広げて(クラブ営業的には)欧州リーグ随一の勝ち組となった。スペインでは、ワールドオールスターの元祖「銀河系軍団」擁するレアルマドリードと、世界最強の名を恣にしたバルセロナは営業的に圧倒的勝ち組になっている。一方で、欧州でもこれらの「世界最強リーグ」以外は外国の視聴者を獲得できず相対的に地位が低下した。かつては強いリーグと見なされていたオランダエールディビジも、いまやすっかりプレミアリーグの育成下請けと化しているありさまである。

Jリーグは現状「ワールドオールスター」ではなく、代表はアジア最強(格)だがリーグは「アジアオールスター」でもない。加えて、ゼロ円移籍解禁(ボスマン判決準拠)の影響からスター選手を失い、「日本オールスター」でさえもなくなっている。時間はかかったが、1990年代後半からの欧州リーグの成長の余波を食い、オランダなどと同じように下請けリーグかが進行しているのである。いや、オランダはまだCLで勝って収入を増やせる可能性があるが、Jリーグにはその道さえ閉ざされているのが現況である。

なぜ代表は人気なのか

Jリーグの停滞に対して代表は現在盛り上がっている。代表は強く、五輪も過去最高の成績で、欧州組も多く「黄金世代」以来の活況を見せている。代表は人気があるがJリーグはそうでもないのは、Jリーグが地元密着のローカルなコンテンツであるのに対し、代表が「日本オールスターチーム」であり「全国的コンテンツ」だからである。

まず、代表は「日本オールスター」であり、夢があり華がある。普段サッカーを見ないという人でもこういった華やかな要素に引かれて集まり、代表ホーム戦はさながらアイドルのコンサートのような雰囲気を醸す。また強さも人気の秘訣の一つである。Jリーグクラブに世界的選手がいない現状では、日本代表は間違いなく「地元最強」と言っていいチームである。複数のプロスポーツチームが一つの都市に同居する例は世界のどこにでもあるが、やはり強いほうが人気がある。そしてもう一つ大きいのが、代表は日本で唯一全国区でファンを持つサッカーチームだということである。Jリーグの各クラブは日本全国を40分割した土台しか持たないが(2013年現在)、日本代表は日本全国の土台の上にサポーター人口を抱えている。名古屋グランパスやサンフレッチェ広島で0.5%しか視聴率が取れない土台でも、日本代表はその40倍、20%の視聴率が取れるのである。そして地上波に出ることでますます知名度を上げ、より多くのサポーターを獲得するという正のフィードバックが働いている。

日本代表の興行数はJリーグのそれに比べても圧倒的に少ない。このため、日本代表はチケット収入は大したものではない。しかし20%の安定した視聴率を稼げる代表は、1試合ごとの放映権料は1億円を軽く超え、その視聴者をあてにした安定した広告収入をもたらす。JFAの収支予算書によると、「代表関連事業収入」に計上されているものだけでも年にもよるが年間30~50億円規模であり、Jリーグに比べ試合数が半分以下にもかかわらず浦和や鹿島、名古屋のような最大クラブ並みの収入を挙げている。実質的に代表人気を当て込んだスポンサー収入まで含めれば、日本で一番稼いでいるサッカーチームと言えるだろう。

その2に続く……かも

Jリーグの経営問題に思う(その1)」への3件のフィードバック

  1. アタシは北海道ですが、ファイターズもコンサドーレも地域密着主義をかかげ、殆んどの試合をローカル放送局がやってます。前者は20%超えてる優良コンテンツです。こないだの日本シリーズは、当事者の広島と札幌で50%をこえ田のは当然として、全国で25%でした。こういうお祭りは別ですが、全国津々浦々で見られ視聴率が稼げる常設のスポーツ全国放送というのは、すでに幻想ではないでしょうか。そういうのは、特別の関心があるマニアのものです。日本では、お金を払えば野球もサッカーも大リーグも、全試合を見ることができます。

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  2. ここで言っていることは、おかしいことがたくさんある。NHKは昔から巨人戦を堂々と何年間も放送していた。全国区の人気?そうではない。一企業である読売巨人軍のみを優遇していただけ。何でそんなことが許されてきたのか?正力松太郎の力に他ならない。何しろ原発を日本に導入したのも彼だから。NHKはJリーグ発足当時、毎回放送していた。当たり前のように。しかし読売ベルディが落ち目になるころから、Jリーグを放送しなくなっていった。
    現在サッカーは人気スポーツである。野球よりも。ところが民放もNHKもどこも申し訳程度にしか放送しない。これは日本の放送局全てが恣意的な力に支配されているためである。だから、ニュースも政府の困るようなことは一切放送しない。福島第一原発がメルトダウンしたときも、分かっていたのに、どこも真実を国民に報道しなかった。未だに3号機を核爆発と認めていず、核爆発している映像も一切映さない。この国の放送局は本当に恥ずかしい、お座なりの放送局で」あり、国民を騙して、馬鹿にする働きしかしていないのが真実である。

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    • 陰謀論的な部分はおいておくとして、スポンサー企業の姿勢の違いは確かにあります。

      プロ野球はメディア(読売、中日等)が自分の新聞を売るためにスポンサーしたり、交通機関(阪神、西武等)が旅客を呼び込むためにスポンサーしていたなど、野球の営業がスポンサーの営業と直結していました。

      比してJリーグは企業内の福利厚生としての部活動(社会人リーグ)の延長線上で出来たので、スポンサー側の思惑がかなり異なるのは事実です。これはまた別途書くべき事項かもしれません。

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